2017年10月13日

第2回 – 未来に向けたメイプルイン幕張の取組み その2

 

■ はじめに

第1回目で、お伝えしましたように、メイプルイン幕張が行なっている未来に向けた取組みの具体的な内容を、専門家の立場から紹介させて頂くことになりました。執筆を担当させて頂くのは、「株式会社 みっつデザイン研究所」と「一級建築士事務所 エネクスレイン」です。以下、簡単に自己紹介をさせて頂きます。

 

前者の「みっつデザイン研究所」は、まず環境建築を『つくる』こと、そして、自然を活かした住まいの良さが発揮できる使い方を支援をする『つかう』こと、それから環境建築の心地よさや楽しさ、技術などを、子どもや大人、学生、技術者に向けて『つたえる』ためのワークショプの企画や教材開発などを中心に活動しています。

 

もう一つの「エネクスレイン」は、建築環境学を基盤とし、環境や資源、循環という視点を大切にした建築環境デザインを行なっています。また、日本での設備設計者としての経験と、ドイツの意匠設計事務所で得た知見を活かし、自然の光や風を巧みに取り込むことのできる、低技術ながら知的な機能を持つ建築の実現を目標に掲げています。

 

このコラムでは、我々の取組みを、できるだけわかりやすく説明したいと考えています。また普段から、住まいの明るさや寒さ、暖かさ、化石燃料の消費など、日頃から建築に関心のある方にとっても、有益な情報を適宜、織り交ぜて行きたいと思いますので、不定期での掲載になりますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます。なお、各事務所の活動内容については、それぞれのウェブサイトを参照頂ければ幸いです。

 

 

■ 客室における温熱環境の改善
メイプルイン幕張では、「宿泊されるお客さまにとっての快適性を維持しながら、電力やガス、水の消費をできる限り抑えることで、環境への負荷を減らしながら、持続可能な社会の実現に貢献する」という一貫した目標を掲げています。

 

これまでは、主に照明や冷暖房に関わる設備機器を更新することで、化石燃料といった地下資源の消費削減を行なって来ましたが、試行錯誤の結果、次の段階として新たな方針を打ち出すことに致しました。

 

その手法の一つが、既存の窓の内側に断熱性の高い内窓を設置するという案でした。これは、建築的な仕掛けによって客室内の温熱環境を改善しようという新たな試みです。これによって、客室の快適性を向上させつつ、その一方で、冷暖房の稼動率を減らせる可能性があります。

 

そこで、いくつかの部屋に試験的に内窓を設置してみました。そして内窓の効果を具体的に把握するため、内窓がある部屋と内窓がない二つの部屋を設定し、実際に宿泊されるお客さまの了解を得た上で、室温等を自動計測致しました。また、アンケートにもご協力を頂きました。

 

今回のコラムでは、2016年2月に行なった実験の内容と、内窓の有無における実測結果から、冬期における客室の温熱環境の違いや、内窓の効果について報告致します。

 

 

■ 内窓の効果
前述したように、2016年2月に、試験的に内窓を設置した客室を準備し、実際に宿泊されるお客さまが滞在している状態で室温などを実測させて頂きました。そのご協力により、さまざまな効果が得られることがわかりました。内窓が持つ優れた長所を皆さんにも是非知って頂きたいと思い、以下、特に重要な点を箇条書きでお伝え致します。

 

冬期における窓際からの冷気の侵入が抑えられるため、窓周囲の寒さが格段に解消されました。
◆ 窓の断熱性が高まったことから、少しの暖房で客室内全体が暖まることがわかりました。
◆ 客室内の上下の温度差がなくなり、客室内の快適性が高まりました。
◆ 毎冬、窓の内側に発生していた結露が解消し、窓周りの清潔感が増しました。
◆ 結露がなくなったことから、清掃時に水滴を拭き取る作業が不要となり、清掃業務が軽減されました。
◆ 遮音性と気密性が高まり、客室内がとても静かになりました。
◆ お客さまへのアンケートを実施したところ、「窓の近くでも寒さが感じられず快適だった」という回答がいくつも寄せられました。

 

上記のように、いくつもの好結果が得られたことから、メイプルイン幕張では継続して内窓の設置を進め、2017年6月現在、全152室のうち、96室が完了しております。これは総室数の約60%にあたります。そして、できるだけ早い時期に、全室に内窓を設置する予定にしておりますので、近いうちに、宿泊されるすべての皆さんに内窓の良さを知って頂けるものと期待しています。

 

 

■ 参考サイト
内窓の設置の背景と、その効果に関して、改修の協力を頂いている旭硝子株式会社のウェブサイトにメイプルイン幕張が紹介されていますので、この報告とあわせて、ご高覧頂ければ幸いです。

 

 

 

■ 実証実験の様子
では次に、2016年2月に行なった実測の具体的な内容をお伝え致します。

 

◇ 測定方法
客室内の天井部分、中央部分、および床面に近いところに温度を記録できるセンサーを取付けました。また、窓の表面温度のほか、冷暖房の吹出し口の温度も測定しました。これによって、お客さまが滞在されている実際の客室環境における温度分布や変化のほか、暖房の稼動状況も詳細に知ることができました。

 

Mapleinn_Makuhari_8.2_Z425_160221DP Mapleinn_Makuhari_8.9_Z426_160221DPM Mapleinn_Makuhari_8.5_Z426_160221D Mapleinn_Makuhari_8.13_Z426_160221DP

 

◇ 窓の表面温度
目には見えないものの表面温度や、その違いを映し出す遠赤外線カメラ(サーモカメラ)を使い、窓ガラスの表面温度を測定しました。下の左側の写真は内窓がない場合、中央の写真は内窓がある場合です。

 

カメラのモニター画像を見ると、左側の既存の窓(ガラス1枚)は青く映し出されています。これは窓の表面温度が低いことを示しています。一方、右側の内窓がある場合は、主に橙色が中心で、その表面温度は、内窓がない左側の窓よりも明らかに高いことがわかります。

 

下の右の図は、内窓なしと内窓ありの温度の違いを示しています。窓表面の平均温度は、内窓がない場合は約15℃、内窓がある場合は約19℃でした。わずか4℃の差ですが、気密性にも大きな差があることから、実際に窓面に立ってみると、内窓がない方は冷気が感じられますが、内窓がある方は不快な寒さを感じることはありませんでした。

 

さらに顕著な違いがみられたのは窓枠の温度です。内窓なしの窓枠の表面温度が約7℃であるのに対し、内窓の窓枠は適度な断熱性を持っていることから、その表面温度は約16℃という結果が得られました。これは、既存の窓枠よりも約10℃高く、これまで既存の窓や窓枠に発生していた結露がまったく生じないことがわかりました。

 

窓枠の熱的性能というのは、一般的に軽視されがちですが、窓枠の面積は、一般的に窓全体の約10%から15%を占めています。ですから、冬期はガラスだけでなく、窓枠を通して室内の熱が逃げて行き、逆に夏は外から熱が入って来ることになります。これらの結果から、窓枠の断熱性も含めた窓全体の熱的性能は、ホテルの客室にとっても極めて重要であることが再認識できました。

 

Mapleinn_Makuhari_6.1_160201D  Mapleinn_Makuhari_6.2_160201D 表面温度差_170627

 

 

■ 実測結果と考察
2016年2月に行なった客室内の室温実測結果を以下に示します。上のグラフは、内窓がない426号室、下のグラフは内窓がある425号室の温度変化です。なお、現在は、426号室にも内窓が設置されています。

 

室温の測定点は、客室の「天井付近(橙線)」「中央部(緑線)」「床面に近い部分(青線)」の3か所としました。グラフの中では「上中下」で示しています。また、窓ガラスの表面温度、外気温、客室内の相対湿度も測定致しました。

 

この実験では、宿泊されるお客さまが実際に客室に滞在されている時間帯も含めて連続して計測を行いました。その時間帯は灰色の網かけで表示してあります。また、お客さまが任意に行なった暖房の入り切りによる室温の変化も、すべてそのまま反映されています。この実測は約7日間行ないました。

 

一般的に、私たちが求める室内の温熱環境は個人差が大きく、暑がりの人もいれば、寒がりの人もいます。そのため、以下の温度変化のグラフが、内窓なしと内窓ありの差をすべて明確に表していると判断することには難しい面もありますが、詳しく見てみると、そこには大きな違いがあることがわかります。

 

温度変化_内窓なし_160412EP

 

温度変化_内窓あり_160412EP

 

この実測結果から得られた重要な知見を、以下、お伝えします。

 

内窓なしのガラスの表面温度(細い灰色の線)は外気温に大きく左右される。
⇒ 内窓なしの場合、窓の表面温度は外気温よりも高いものの、その変化に追従するように同じく、また大きく変化しています。
⇒ これは、ガラス1枚には断熱性と熱容量がまったくないため、外気温の変化に極めて容易に影響されることを示しています。
⇒ 室温と窓表面温度の差は概ね10℃で推移しており、室温よりもかなり低いことがわかりました。

 

◆ 内窓ありのガラスの表面温度は室温に近い。
⇒ 内窓の表面温度は、内窓なしの温度よりも高い温度を保ったまま変化しています。
⇒ その温度は、室温とほぼ同じで、外気温とは、おおよそ15℃近く差があることがわかりました。
⇒ 窓の表面温度が室温に近いことから、窓周辺の温熱環境は安定しているといえます。

 

◆ 内窓ありの室温は20℃を下回らない。
⇒ 2月22日(月)から23日(火)にかけて、内窓なしの客室の天井付近と中央部の温度は20℃を下回っています。
⇒ 一方、内窓ありの同上の室温は20℃以上を維持しています。
⇒ 内窓がある場合、暖房が停止している時間帯でも、室温はそれほど下がらないことがわかりました。

 

◆ 内窓があると、床面付近の温度低下を防ぐことができる。
⇒ 内窓なしの場合は、おおよそ16℃から19℃の範囲で推移しています。
⇒ 一方、内窓ありの場合の温度変化の範囲は、17℃から24℃です。
⇒ 内窓を設置することにより、冬期における足元の温度を改善できることがわかりました。

 

 

■ アンケート結果
メイプルイン幕張には研修施設が併設されており、宿泊を含めた数日間にわたる会議や研修が定期的に行なわれていることから、何度も宿泊されている方がいらっしゃいます。今回の実証実験では、そういった方々や一般の方も含めて、アンケートに対し、たくさんのご協力頂きました。その結果をすべてをお伝えすることが難しいため、以下、抜粋してお伝え致します。

 

◆ 内窓がなかったときは、窓面の結露のため外の景色が見えなかったが、内窓があると窓面の曇りがまったくなくなった。
◆ 内窓を設置して頂いたお陰で、窓面からの冷気が感じられず、窓際の机に向かっていても寒さを感じなかった。
◆ 内窓があると、内窓がないときよりも、就寝時の室内の冷えが抑えられているように感じられた。
◆ 暖房の設定温度をあまり高くしなくても、暖かさが持続して快適だった。
◆ 内窓を閉めると、外の音がほとんど聞こえなかった。

 

 

■ さいごに
これまでご覧頂いた実測結果と考察から、内窓を設置することにより、予想以上の効果が得られることがわかりました。この結果を踏まえ、今後もメイプルイン幕張と恊働して行くことで、宿泊されるお客さまにとって、より快適に宿泊して頂ける環境を実現しながら、さまざまな可能性をさらに探って行きたいと考えております。

 

また、これらの取組みを通じて、電力やガスといった地下資源を消費することで得られるエネルギーの削減も大切な目標の一つとして掲げています。その一例として、ホテル全体での給湯の使用量や、使われ方の具体的な把握、あるいは太陽熱を利用した温熱供給方法について、今後、大学との共同研究も視野に入れています。

 

以上、「未来に向けたメイプルイン幕張の取組み」として、内窓設置の冬期の実測結果について報告させて頂きました。なお、第3回目は、今年2月に行なった「省エネルギー診断」に関してお伝えする予定にしておりますので、引き続き、我々の取り組みに注目を頂けると幸いです。

 

 

■ 協力

◇株式会社 エイコー          http://www.eicoh.com
◇AGC/旭硝子株式会社|旭硝子プラザ   https://www.asahiglassplaza.net

 

 

■ 総合監修

◇株式会社 みっつデザイン研究所    www.mittudesign.com
◇一級建築士事務所 エネクスレイン   www.enexrain.com
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